Apr
14
Sylvester Weaver & Walter Beasley | St. Louis Blues
男がひとり歩いている ポケットに手を突っこんだまま俯いたり顔をあげて左右をゆっくり見たりしている 立ち止まっていたけど歩き出した バスはもう来るはず。
見わたす視界がどれだけ広くても空を掴むことは出来ない。
バスの狭い一人がけ椅子に浅く腰かけて 男は窓の外を見るではなく何を見遣るではなくポケットの中をずっと探っている そこにあるはずのものを。懐かしい匂いの感情たちがどこからか漂ってくるが男は気に留めない 無心に探っている手だけがその指だけが生きて動いているただ一つのものだった。
そうして到着する。
辺り一面にわがもの顔で菜の花の咲きほこる夕暮れの国 そこは男が求めていた場所ではなかったし通ることがあるとすら思っていなかった偶然の行き掛かり ではあるけれども 男は何ひとつ見出せなかったポケットから素早く両手を出してそれを高くあげた。
言葉はない。色彩があった。
手は高くあげられたまま風を受けていた 時刻を確かめるための時計はなく時間が流れた。
ポケットに手を突っこんでひとり俯いて歩いていたとき何を待っていたのか何を探していたか何を失いつつあったか。
菜の花は黄色かった どの菜の花を見ても。
目をつぶれ。
手をあげよ。
祈らずに祈れ。
それだけが男の知っていた言葉のすべてであり 他の者たちは蒼ざめるための顔を持たなかったからバスに乗り損ねただけなのだ もう八千年前に。
目をつぶれ。
手をあげよ。
祈らずに祈って目はふさげ手はそのまま握りしめずに風を受けよそして祈るな。
微かに聞こえている音は何だその名前を言え。
その名前を 言え。